社外取締役座談会

社外取締役座談会
日東紡グループならではのイノベーションは、
連続する経営資源から非連続なイノベーションを創出してきた人財の力にある
当社のコーポレート・ガバナンスに対する評価と、自身の経験、スキルを発揮していきたいテーマ、領域についてお聞かせください
  • 藤重 貞慶
    藤重
    当社の取締役会は、社内取締役が3名、社外取締役が4名という公平公正な構成で、統制上、株主の観点から監督する機能が果たされています。社外取締役のそれぞれの専門分野も活かされています。
    取締役会の前には取締役会事前報告会という場が設けられ、そこで取締役会のアジェンダに基づく、非常に活発な議論がなされ、実際の取締役会での機能を高めています。
    私は経営の観点から、主に中長期的な経営戦略の重要性や方向性を監督する役割を担うことができればと思っています。一般消費財会社の経営経験がありますので、顧客ニーズの把握や世の中の潮流がどのような方向に向いているかといった観点からの情報が比較的多いかと思います。
    指名委員会の委員長として当社の後継者の育成にも関わっていますが、着実に推進しているとみています。
  • 影近
    取締役会の事前報告会は大変内容が濃く、執行側からとても真摯で詳細な解説がありますので、取締役会において非常に議論しやすい環境が整っていると思っています。
    私は社外取締役で唯一の技術屋で、特に素材産業の研究開発部門の経験がありますので、当社のように素材を作っている会社の研究開発のあり方について適宜意見を述べさせていただいています。私は現在の中期経営計画(中計)を検討していた2020年に就任し、いくつか意見を反映していただきました。具体的には、総合研究所の研 究開発体制や組織体系です。2020年4月に総合研究所の新研究棟「NI-CoLabo」が完成しましたが、総合研究所の中にきちんとコーポレートラボ機能を位置づけること、その下にディビジョンラボとして、グラスファイバー事業の研究部隊と、メディカル事業の研究部隊を作って人員配置すること、こうした組織体制を提言しました。
    辻社長の思いを中計に反映しようと、議論をしてきました。
  • 内藤
    藤重さんがおっしゃったように、当社の取締役会はガバナンスの観点からバランスの取れた構成になっていると思います。取締役7名のうち、4名が独立社外取締役で、経営や研究開発、会計、そして法律の専門家が含まれていて、いわば企業経営の攻めと守りの双方にゲートキーパーがいる構成になっています。構成が多様でも実際に機能しなければなりませんが、取締役会では、自由闊達に意見が述べられていると感じますし、お二人が触れられた事前報告会が単なる議案の説明の場にとどまらず、問題意識を提起したり、“最近、ちょっと気になっている” ことなど、インフォーマルな意見交換の場としても、非常に重要な役割を果たしていると思います。
  • 中島
    私は公認会計士をしてきまして、今回、監査委員会委員長を拝命しましたので、監査委員会をしっかり運営していきたいと考えています。
    まず、執行部隊の監査の進め方をよくお聞きし、その上で私どもも様々な判断を下しながら監査を進めていきます。具体的には、リスクマネジメントができている組織かどうかに注視し、コロナ禍で特に海外は現場監査もリモートで行っていると思われますので、内部統制がしっかりできるかどうかに焦点を当てて監督していきます。
中期経営計画の1年目の進捗をどのように評価していますか
  • 藤重
    中計の進捗では、初年度の目標はクリアしていますし、コロナ禍で市場環境も大きく変動する中で健闘しています。ポイントが2つあります。
    一つは、当社は先端技術開発力が非常に優れていますが、これは日進月歩の世界で、しかも新しい技術が次々に開発されています。最先端に対する触覚をもっともっと強くし、加えて他の研究機関とのコラボレーションなどを積極的に行うことが必要です。
    もう一つ、当社は市場高感度企業を目指しています。従来、市場情報は取引先が主な取り込み先でしたが、これからはもっと幅広い情報収集を高感度にやっていかなければなりません。この2点について積極的にサポートしていこうと思っています。
  • 影近 博
    影近
    当社のようなモノづくり会社においてはやはり製造技術が肝要であり、プロセス関連の技術開発をもっと強化しなければなりません。中計の2年目である2022年度は、工場にある開発機能を研究所に一部集約するなど、総合研究所におけるプロセス開発体制の強化に取り組んでおり、これから効果が出てくると期待しています。例えば、歩留まりの改善や、次世代商品の品質に対する顧客満足度を上げるといった喫緊の課題に、総合研究所が中心となって対処できるようになりました。
    先日も総合研究所長とディスカッションしましたが、現在、総合研究所では「20%ルール」の下、各自のマンパワーの20%を目途に、既存のテーマとは別に、独自のアイデア・考えを試してみる取り組みをスタートさせました。特に若手の人たちにトライアンドエラーの機会を与え、エラーを恐れずに新たな技術シーズを実証する環境を提供しようとしています。20%ルールが一つの突破口になれば良いと思っています。
  • 内藤
    私は、中計の4つの柱のうち「人財育成 」に注目しています。今後、ダイバーシティ&インクルージョンが進んでいない組織は、優秀な人財を採用できないだろうという思いがあります。2021年度の女性管理職比率は4.9%と5%を切っており、2030年に10%という目標には、まだ及びません。もちろん、女性管理職比率を上げることだけが目的なのではなく、多様な人財がそれぞれ活躍できる組織とすることが、イノベーションを生み、また、優秀な人財を惹きつけることを可能にすると考えています。そうすることで、従業員のエンゲージメントも自ずと向上してくるのではないでしょうか。一朝一夕に進む話ではありませんが、注意深くフォローしていきたいと思っています。
  • 中島
    中計を策定して以降、非常に大きな変化が起きています。一つがコロナ禍で、もう一つが脱炭素の流れです。これらに対応して企業の行動原理も、開発の方向性も変えていかなければなりません。そこは費用もかかる話ですし、世の中の変化によっては更なる構造改革が必要となります。財務・会計の立場から、世の中の変化にどのように対応していくのかを見ていきます。
「変革を起こす人財の育成」をどのように進めていくべきでしょうか
  • 藤重
    これは非常にシンプルで、若手を思い切って起用することです。「これをやりたい」という、ある種無鉄砲なことに対し、思い切りやらせる資金手当てや処遇、活躍の場を考える。あるいは、内藤さんが言われた多様な人財の組み合わせによるセレンディピティー、いわゆる偶然の出会いによって新しいイノベーションの芽を育てていくことが欠かせません。イノベーションには正解がないので、とにかくやってみて、その中で良いモノを取り上げていく勇気を持つことが大事だと思います。そして、変革する素質のある人をしっかりとサポートする、パトロナイズする。そういう経営マインドが必要です。
  • 影近
    私は、人財が育つ環境づくりをしっかり進めていかなければならないと考えています。そこで重要なのが「善良なプライド」で、つまり、技術に対する自信、使命感です。会社には、ポジションによって“期待値”があり、これをきちんと認識させる環境を用意すべきです。
    新入社員が研究員として入社した場合、ある技術分野で早期に一人前へと育てるには、お客様とのディスカッション、社外の学会活動や社外研究者との交流、自身の業績発表などを通じて、自分がどれだけ技術屋として完成しているかを認識させる必要があります。そのような機会を会社がしっかりつくり、その時々での個々人のコミュニケーション能力を鍛えていくべきです。
    更に組織の使命として、幹部が知恵を絞り、的確にテーマ設定をして、そこで頑張る研究員の能力を引き出していかなければなりません。テーマをこなしていく過程で一人ひとりの若手研究員がキャリアアップし、成長していければ、研究所のアウトプットが増え、活性化してきます。
  • 内藤
    人財の育成方法についてはお二人がおっしゃる通りだと思います。ただ、せっかく育成した人財も、有効に機能しなければその意義は半減してしまいます。それぞれの部門で育成した人財が、当社という組織でその力を発揮するためには、部門間の風通しの良さが非常に重要だと考えています。
    この点は、中期経営計画の議論中でも意識され、「カスタマーサクセスタスクフォース」という形で、顧客ニーズや商品アイデアをより効率的に共有し、マーケティングから商品企画、商品開発までを連動させて、カスタマ―ソリューション力を強化する仕組みの導入に繋がったものと理解しており、大変期待しています。
    変動の激しい経営環境では、「日東紡の商品でなければ」「ぜひ日東紡の商品を買いたい」と言っていただけるお客様をどれだけ獲得できるかがモノをいいます。人財の力を最大限に引き出すためには、“私の領域はここまで”といった壁を作らずに、場合に応じて適宜、適切なチームで柔軟に対応する、有機的な連携が欠かせません。
    内藤 亜雅沙
  • 中島
    変革を起こす“玉”を持っている人が組織に入ってきた時に、その人を活かせるかどうかだと思っています。変革を起こす人財をチーム力として組織に落とし込んでいく方法はないのかが私の考えるポイントです。
    皆さんが言われたように、風通しやコミュニケーションを良くすることによって、一旦玉を持った人財を活かすチームや組織になると、それに引き寄せられるように、また玉を持った人財が入ってきます。一つ転がり出すと様々な面でプラスに働きますが、反対回転を起こし始めると良い人から辞めていきます。まず順回転にもっていくことが先決です。
『Big VISION 2030』の実現に向け、今後、どのような取り組みを進めていくべきでしょうか
  • 藤重
    「グローバル・ニッチNo.1」は非常に大切なテーマで、世界でNo.1になるにはどうあるべきかという視点を常に持つことを意味します。そのために変革のマインドを持った人、若い人を世界のマーケットで武者修行させるのです。環境の良いところにいたのでは人は育たないので、厳しい環境でたくましく生き延びていく人をスクリーニングしていくことが非常に大事だと思います。繰り返しになりますが、市場高感度な体質に切り替わることが重要です。
  • 影近
    『Big VISION 2030』で掲げた目標は高く、脱炭素も含め、現在の技術の延長線上ではなかなかクリアできない目標です。基本的には技術主導で問題解決していくのですが、その技術開発力も一段上、二段上の革新を達成しなければならないため、テーマ設定から見直す必要があります。
    当社には、長い歴史の中でグループ会社に蓄積された高度な技術、人財があるため、今こそグループ一丸となって開発に臨む体制を強化しなければなりません。次期中計に向けた議論の中で出てくるでしょうが、ガバナンスも含め、グループに分散する技術人財をどのように集約し、パワーを上げるかを中心に考えていきたいと思います。
  • 内藤
    “ニッチ”はその時々に応じて常に変化し、更に高度なものへと進化していきます。つまり、世界の中の最先端の“ニッチ”にキャッチアップできるプロフェッショナル人財、グローバル人財をいかに育成できるかがポイントなのではないでしょうか。
    グローバルという点では、サステナビリティ経営も重要なキーワードです。当社はサステナビリティ推進委員会を設置し、環境課題を中心に取り組んでいますが、サステナビリティ経営の課題や環境課題は、具体的な目標を作ってしまうとそれ自体が目的のようになってしまいがちです。いかに中長期的な企業価値と連動させて取り込んでいくか、それをマルチステークホルダーにいかにアピールしていくかが問われています。
    当社のありたい姿からバックキャストして常に現在地を振り返り、定期的に目標を見直しながら、実質的な企業価値向上に努めるとともに、それを世界に向けてアピールする努力も求められると思います。
  • 中島
    「グローバル・ニッチNo. 1」は当社にぴったりなフレーズで、まさにニッチ市場で、品質No. 1という形で勝負していく企業だと理解しています。成長は地道な積み上げと考えているので、グローバル・ニッチは賛成なのですが、『Big VISION 2030』を日々の連続的な営みの中で実現していく方策を見いだしていくこと、そこがポイントと考えます。
    中島 康晴
  • 藤重
    当社の場合、ガラス繊維や体外診断薬などの中核経営資源は連続していますが、対象とするマーケットは非連続であるというケースですね。事業の多角化では、中核経営資源は連続していますが、マーケットや商品は様々に展開できるというのが効率の良い多角化になります。
  • 影近
    おっしゃる通りですね。歴史的にも繊維の基本技術を応用してグラスファイバーができ、また、新しい検査医療用の材料を見いだしてビジネスに繋げて大きく成長してきました。基幹技術は確かに繋がっていますが、その場面、その場面では非連続です。すなわち、今後もコア技術を育てながら新しいビジネスや機会を見つけ、成長していけるかにかかっています。
    私の印象では、『Big VISION 2030』の目標は、今の事業ベースを一斉に成長させていった時に到達すると想定される売上や収益レベルのように見えます。市場環境が劇的に変わり、ハードルが高くなってきているのは確かなので、『Big VISION 2030』に新しい事業を起こして成長していくというシナリオが加わればベストと考えています。
  • 内藤
    会社が取り組んでいることや技術には連続性がありますが、新しい市場を見つけた時、当社は変革してきました。今後大きく拡張していくために、どのように新しい分野を見つけるかに簡単な答えはありませんし、偶然による部分もあると思います。
    動かないことには探し出せないので、このような技術があると発信していく、あるいはお客様に問いかけるなど、両方向で努力していくことで、意外な領域にも広がっていくのではないかと期待しています。